「ここにいる人たちもそうだ。悪いことしたからここにいる。それは間違っていない。でもだからといって、ここにいる人たちが全ての人に対して悪い人かどうかは、僕には言えない。良いと思う人もきっよいる。だからそれは君が判断することだ。君自身が判断して、行動していけば、それで良いんだ」
あらすじ
『ご』と入力すると『ゴメン』と出てきて……『ゴメン。今日も仕事でダメになった』の一文ができあがる――。激務が続く番組制作会社で働く芦原志穂。彼女は今日も恋人にデートのキャンセルを告げるメールを打っていた。最近では「次はいつ会えそう」というメールすら届かない。そんな中、志穂は上司からの命令で、刑務所の中の美容室を取材することになるのだが――。彼女たちは、なぜそこに髪を切りにいくのか。刑務所の中で営業を行う美容室を舞台にした、感動の連作短編集。
公式サイトより
この作品を三行でまとめると
- 受刑者に対するいろいろな見え方
- それぞれの人生観
- 過去と決別すること
感想
この物語は、刑務所の中にある美容室を通じて、受刑者ながら駆け出し美容師の葉留と色々な人との関わり方を描いたオムニバス形式のヒューマンドラマです。
お客さんは女性限定ではある物の年齢も境遇もばらばら。ある人は自分自身と向き合うため、またある人は興味本位で、またある人は明日を生きるために。理由はみなそれぞれですが、ここに来たお客さんは髪を切るという事を通じて自分自身と会話をし、その手助けを美容師さんがしているのかなと私は感じました。お客さんと美容師さんのが髪を切るという交流をしてみなそれぞれがもっている過去を自分なりに消化していく。その様子が髪の毛を切ることとうまく重なっているなと私は感じました。
私は刑務所に行ったことも無ければ犯罪を犯し刑務所に入った友人も知人もいません。だから受刑者という存在を想像することしか出来ません。この物語では色々な立場の人間が「受刑者」という人をどのように見ているのかということもきちんと描かれていました。年をとったお婆さんと、成長途中の中学生、身内に犯罪を犯してしまった人とでは見え方が全く違います。全く気にしない人、怖いと思っていたら実はそうでもなかったと感じ方は人それぞれですがそれが面白いところだと私は思います。
決して派手さはないのですが読みやすくそして優しい物語にぐいぐい引き込まれていきます。もしかしたら現実の刑務所はこんなに綺麗なところではないのかもしれません。そこはフィクションです。こんな刑務所が存在したら素敵だなと想像するのはとても楽しいことです。
物語はフィクションですが、刑務所の美容室は実際に存在していて作者も取材にいって本作品を執筆しているそうです。なのでフィクションだけどリアリティがあります。そこがこの物語の説得力に繋がっているのかなと感じました。
最後に一言、最後のお話に出てくる翔太君、格好よすぎやしませんかね(笑)